どん底から掴み取る金塊

ベック『モーニング・フェイズ』
2014年02月26日発売
ALBUM
ベック モーニング・フェイズ
大絶賛の『モダン・ギルト』からなんと6年。最長のブランクの後完成したのが通算12作目の『モーニング・フェイズ』だ。脊髄損傷のためギターを持てなくなったほどだったそうだが、良い知らせは、体は完治したということ、そしてその絶望的な状況から今作を生み出したということ。『シー・チェンジ』と対になるというこのアルバムはアコギ主体で、何よりベックがとてつもなく孤独であることが両作品の共通点だ。『シー・チェンジ』は失恋から生まれたが、今作で彼が行き着いた絶望はさらに深い。「もう孤独でいることに疲れた」、そして「孤独」がリピートされる曲など、それぞれの曲で、新たな最悪で不安な1日が始まる。しかし「朝の輝き」というタイトルが示すように、彼はそこから抜け出すこと、「朝の輝き」を見つめることを曲にしている。その過酷さは思いきりスロウなテンポからも窺えるが、父と一緒にアレンジしたストリングスによるメランコリーかつエモーショナルなサウンドや、ベックの極上のハーモニーなど、ひたすら最上の音作りを目指したような曲は、真っ暗なトンネルをこぼれるようなきらめきとまばゆいばかりの光で埋め尽くしていくのだ。ベックにはいくつもの扉があるが、人間の本質を問われた時にこの場所に戻って来る。死すら見つめたような底から彼がむしろ生命力溢れたサウンドを生み出すのは彼のアーティストとしての本能的なサヴァイヴァル精神なのかもしれない。そこから輝かしきサウンドを掴み取ってきた今作はベックのアーティストとしての真髄が表れた傑作だ。(中村明美)
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