解き放たれた運命の1曲

BUMP OF CHICKEN『Smile』
2011年05月11日発売
SINGLE
BUMP OF CHICKEN Smile
《ああ ああ》と叫ぶ藤原基央の声が、生まれたての赤ん坊のように響く。あまりにも無防備だ。この曲を初めて聴いたとき、そう思った。シンプルなメロディをシンプルな弾き語りで歌っている――からではない。この曲はバンプ・オブ・チキンの物語を超えたところで鳴っているからだ。藤原が書く歌には、いつも「物語」があった。それは少年の成長譚であり、冒険譚であり、大人になっても少年の心を失いたくない者たちへの賛歌だった。そしていうまでもなくその物語はそのままバンプの物語でもあった。しかしこの藤原は違う。“Smile”を歌う彼の声は、物語を語り出す前に、無垢の感情として放り出されている。感情をさらけ出したまま、この悲しみに満ちた世界を丸ごと愛そうともがいている。井上雄彦とのコラボレーションは単なるきっかけにすぎない(だからこそ運命的なのだが)。日本を襲った巨大な悲劇を前に、藤原は物語をかなぐり捨てて叫んだ。そうせずにはいられなかった。そこにこの曲が生まれた意味がある。バンプの未来、そして表現者・藤原の未来を動かす1曲になる気がしてならない。(小川智宏)
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