一見普通のサントラだが……

ダフト・パンク『トロン:レガシー』
2010年12月15日発売
ALBUM
ダフト・パンク トロン:レガシー
これはやはり問題作か。大規模なオーケストレイションを導入しダフトのエレクトロニクスと融合したエレクトロ・シンフォニー作品。過去にジェフ・ミルズやカール・クレイグが同様の試みを行っているが、おそらくは彼ら自身がスコアを書き、サンプリングや電子音の合成ではなく、生のオーケストラを率いて作られた本作は、ハリウッド製の大作映画のサントラらしい、よりゴージャスかつ重厚な作品となっている。彼らには“ワン・モア・タイム”や“ロボット・ロック”のようなポップでキャッチー、かつどこか歪んだ世界を求める人が多いと思うが、シンフォニックな曲を他の職業的な映画音楽家に委ねることもできたはずなのに、映画製作者もダフト自身もそうしなかった。映画の世界観を実現するためには、彼ら自身がすべての音楽をコントロールしなければならなかった。いやより正確に言えば、ダフト自身の世界観をヴィジュアル的に具現化したのが『トロン:レガシー』であり、極論すればダフトが『トロン:レガシー』に音楽をつけたのではなく、ダフトの音楽の巨大なPVが『トロン:レガシー』なのではないか、という見方も成り立つ。

映画の基本的なトーンは冷たいブルー。孤独、不安、喪失といった感情が喚起され、音楽からもこれまでのダフトの享楽性や楽観性とは異なるモードが感じ取れる。それは映画の世界観の反映なのか、あるいは2010年という時代の投影なのか、ダフト自身の心境の変化なのか、おそらくはそのすべてだ。つまりは2010年に於けるダフト・パンクの「正しい」ニュー・アルバムとして、本作はある。(小野島大)
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