極北に咲く原色の音

ヨンシー『ゴー』
2010年03月31日発売
ALBUM
ヨンシー ゴー
「世界で最も澄みきった音響水墨画を描いてきたシガー・ロスのフロントマン=ヨンシーから、この原色のスーパーボールのようなサウンド飛び交うポップ・スペクタクルが?」というM1での驚きは、パーカッション/コーラス/ストリングス/リコーダーなど次々に押し寄せる色彩の洪水によって洗い流される……ヨンシー・バーギッソン初のソロ・アルバムはそんな衝撃の展開で幕を開ける。が、シガー・ロスの音の質感をまったく異なるサウンド・テクスチャーを用いて再現したようなM6を境にアルバムの空気は一転。最終的に聴く者は誰もが真っ白な音の極北に取り残されることになる。そう、今作はヨンシーがパートナーのアレックス・ソマーズとともに作ったインスト作品『ライスボーイ・スリープス』の続編でもなければ、ヨンシーの「非シガー・ロス的側面のダイジェスト」などでもない。何を制御することもない、そして何者にも(シガー・ロスそのものにも)遠慮することのない、ヨンシーの雄大な表現世界そのものであるということだ。

ビョークやアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズなどでも腕を振るうマルチ・プレイヤー=ニコ・マーリー、そして辣腕パーカッショニスト=サムリ・コスミネンのサポートを得て、ヨンシーが己の持てる可能性を心地好くほとばしらせた全9曲。何より、今作で暴力的なまでに咲き乱れる彼のファルセットの美しくも悲壮な輝きは、どんなタフなリフや強烈なメッセージよりも、聴く者の心を抗い難くこじ開けるマジックに満ちている。戦慄。(高橋智樹)
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