生きるために聴く歌

plenty『拝啓。皆さま』
2009年10月21日発売
ALBUM
plenty 拝啓。皆さま
まず声だ。ざらついた粒子とミルクのようななめらかな液体が薄く何重にも折り重なったような質感。幼児の心の柔らかさと、老人の心の襞の複雑さが合わさったような、性別さえないような領域にある存在感。草野マサムネ、藤原基央、野田洋次郎といったボーカリストの声に通ずる、魔力のある声を江沼郁弥は持っている。そして言葉の少なさ。単純に歌詞が短いということだけではない。描写や比喩を積み重ねてイメージを構築していくのではなく、plentyの歌詞は言葉によって次々と何かを消していく。できない。わからない。ない。何もない。「ない」が積み重なって全て消え去ったかと思われた瞬間、最後に残るものがある。それは、よく知っているもの。それがあるから生きているもの。ときどき見失いそうになるもの。でも、plentyの楽曲が、暗く広大な海に浮かぶ灯りのようになって、それがそこに確かにあることを知らせてくれる。

そんな江沼の楽曲を紡ぐために、バンドの演奏は極度の緊張を要求されるはずだが、驚くほどしなやかで自由で確信に満ちている。ロックバンドとしてもplentyは特A級だ。(古河晋)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする