解き放たれた野犬たち、疾走す

シェイム『ドランク・タンク・ピンク』
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ALBUM
シェイム ドランク・タンク・ピンク

UKインディ・ギター・バンド新波の先陣を切ったシェイム、3年ぶりとなる2ndが遂に登場! 作品そのものは昨年前半に完成していたものの、コロナの煽りでライブ・サーキットが壊滅したためにリリースが遅れた。メンバーも一時期バイトで糊口をしのいでいた(!)というからきつかったはずだが、苦境を乗り越え新年で心機一転、アイドルズやフォンテインズD.C.らパンク/ポスト・パンク系バンドの大躍進でシーンが熱くなっているこのタイミングでの帰還がむしろ吉と出ることを祈らずにいられない――というか、これで彼らが本格爆発しなかったらこの世の中は何か間違っているだろう、そう感じるくらいパワフルにみなぎった爆風アルバムなのは嬉しい。

プロデュースはジェイムス・フォード、録音はアークティック・モンキーズが『トランクイリティ~』で使ったフランスのスタジオにて……という前情報を筆者は個人的にやや警戒していた。彼らの奔放さがメインストリームなサウンドへとこぎれいに整えられてしまうのではないか?と。しかし、のっけから炸裂するビート主体なパンク・ファンクとカッティング主体の鋭角なギターとのガチな相互作用は衝撃的にかっこよく、前半の怒濤の勢いは息つく間も与えない。吹っ切れた! 個性のひとつだったネオ・サイケなリバーブ・ギターとバギーなリズム感は後退しモンキーズというよりむしろフォールズ型の緊張度の高いポスト・パンク~ハードコアを志向している。思わずヘッドバングせずにいられないし、アルバム中盤以降の⑥⑦⑪をはじめとする聴かせる曲での空間と緩急のコントラストを活かしたアレンジも見事。ダイナミックなドラミングといい目を見張らされる緻密なギター・プレイといい「バンド」としての総合力がぐっと上がっており、天然なカリスマと表現力を備えたチャーリーのボーカルと肩を並べる迫力が加わった。常々ライブ・バンドとして高く評価されてきた彼らだが、ジェイムス・フォードはその興奮と成長を盤に真空パックすることに成功したと思う。「ロンドンのストリート・キッズ」的な憎めない愛すべきキャラ+若者らしいハッタリ、原石の輝きとで魅了したデビュー作は多くの意味で試走だった。しかし20代になってから書いた=大人としての最初の1枚である本作は、その世界に質実が伴っていたことを証明してみせると共に本気を出した彼らの底力を実感させる傑出したロック・アルバムになった。ファーストが好きだった人は感嘆し、本作でシェイムの音楽に初めて触れる人は彼らに惚れる、そんな1枚。(坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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シェイム ドランク・タンク・ピンク - 『rockin'on』2021年2月号『rockin'on』2021年2月号
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