50年越しに届いた、新年の誓いのメッセージ

ジミ・ヘンドリックス『バンド・オブ・ジプシーズ:コンプリート・フィルモア・イースト』
発売中
BOX SET
ジミ・ヘンドリックス バンド・オブ・ジプシーズ:コンプリート・フィルモア・イースト

ジミ・ヘンドリックスがウッドストック出演後の1969年10月に結成した“バンド・オブ・ジプシーズ”は、彼にとって、新たな「夢の始まり」となるはずのバンドだった。エクスペリエンス時代の「UKサイケデリック・ロック」という窮屈な箱から解放され、よりブルース/ソウル/ファンク的なサウンドを追求することで、ジミは、ロックの新しい形を探そうとしていた︱シンプルに言い換えるなら、もっと自由にギターを弾きたかったのだ。もっともっと空高く飛翔したかったのだ。

残念なことにジプシーズはその後あえなく解散し、へンドリックス自身も、70年9月には27歳という若さで還らぬ人となってしまった。でも、われわれ音楽ファンにとって幸運だったのは、彼らが69年の大晦日~元日にかけてニューヨークのフィルモア・イーストで行なった計4回の公演がすべてレコーディングされていたこと。今回発売となる本盤は、そのフィルモアの全4公演を史上初めて「フル収録」した、ファンにとっては待望のリリース。過去にあちこち( 70年発表の『バンド・オブ・ジプシーズ』、99年発表の『ライヴ・アット・ザ・フィルモア・イースト』などなど)でバラバラに発表されてきた音源がライブ当日のリアルな曲順に編集し直され、さらには、これまで未発表のままだった計8曲分も解禁となった。ロック史に残る伝説の2日間を、ついに「あるがまま」に、フル・サイズで追体験することが可能になったわけだ。

今回のボックス・セットには、貴重な未発表写真を満載したブックレットも収録。デザインもグルーヴィな色調に仕上がっていて、「50周年」の冠に恥じない仕様となっている。

でも、もちろん言うまでもなく、本盤の最大の目玉は、CD5枚にまたがって収録され、計5時間以上に及ぶライブ音源そのものである。観客の前でこの夜初めて披露された新曲“ラヴァー・マン”や“アース・ブルース”の演奏では、当時のジミが模索していたファンク・ロックの圧倒的なグルーヴが、目の前にまで迫ってくる。一方で“ブリーディング・ハート”や“スティール・アウェイ”といったスローなブルース・ナンバーでは、ジミの繊細なピッキングのかすかなニュアンスまでも聴き取ることができる。最新のマスタリング技術という魔法の力を得たことで、気がつくと、タイムマシンに乗って、69年大晦日のフィルモア・イーストにワープした気分にさえなってくるはず――50年の長い年月が過ぎた今なお、ジミ・ヘンドリックスは戦い続けている。もっと自由に。もっと空高く。 (内瀬戸久司)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ジミ・ヘンドリックス バンド・オブ・ジプシーズ:コンプリート・フィルモア・イースト - 『rockin'on』2019年12月号『rockin'on』2019年12月号
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