聖典の域へ

デペッシュ・モード『スピリット【デラックス・エディション】』
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ALBUM
デペッシュ・モード スピリット【デラックス・エディション】
ベン・ヒリエがプロデュースを手がけた近作3タイトルは、21世紀に入ってデペッシュ・モードが堂々たる安定と充実の時代を迎えた事実を世に示した。ただ、前作『デルタ・マシーン』では、どこかアメリカーナな質感を伴う、ともすれば「ダーティー」とさえ形容したくなるほどの奇妙な「生々しさ」が随所に表れてきたことも印象的だった。そして今作のプロデューサーには、ヒリエに代わりシミアン・モバイル・ディスコのジェイムス・フォードを起用。押しも押されもせぬ大ヴェテランが、ここにきて創作面での新たなチャレンジに踏み込むのかどうかが注目された。しかし完成したアルバムは、1曲目からデイヴとマーティンの2人による「伝家の宝刀」的な掛け合いをフィーチャーし、重厚なサウンドと繊細な叙情性の美しい交錯を聴かせる鉄板にして盤石な内容。そのうえで、カントリーやブルースの大御所が歌声に込めるような重い人生の業を、特に生楽器や歪んだ音色などを不必要に強調したりせずとも、自ら築き上げたサウンド美学の中で静かに燃え立たせる表現として完璧に確立している。まさに『スピリット』と呼ぶべき音だろう。(鈴木喜之)
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