近代大衆芸能の粋

ポール・マッカートニー『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト(デラックス・エディション)』
発売中
ALBUM
ポール・マッカートニー ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト(デラックス・エディション)
ソロ・デビュー46年、とはちょっと奇異なタイミングだが、ビートルズ解散以降の全キャリアを総括する決定版ベスト。4枚組67曲4時間18分にも及ぶヴォリュームは、並のアーティストなら「ベストじゃなくて全曲集だろ」と突っ込みたくなるところだが、これでも足りないと思わせるのが恐ろしいところだ。

呆れるほど幅広い音楽性、キャッチーで人懐っこいが決して媚びない品のあるポップネス、一聴してわかる個性とポピュラリティの両立、時代に応じて巧みに意匠をアップデートしていくセンサーの鋭さ、そして舌を巻くほど完成度の高いメロディ。美点は挙げればキリがないが、通して聴いて痛感するのは、ポールの才能は極めて優秀なアルチザンのそれであること。実験を実験と思わせないアレンジの妙で、どんな題材であれコマーシャルなポップ・ミュージックに仕立ててみせる。これだけのクオリティの楽曲を45年以上にもわたって量産し続けポップ・ミュージック界のトップに居続けた才能は、アーティストというより20世紀最大の大衆芸能の、これ以上ない理想的な体現者のそれと言える。こんな男と同時代に生きられて幸せだ。(小野島大)
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