ダフト・パンクの新作について

ダフト・パンク のアルバムの評判はすごくいいのだけど、その画期性についてあまり語られていない気がしたので、今月号のロッキング・オンの編集後記で書きました。こんな感じです。↓


「今月の一枚 」
なんといってもダフト・パンクの『Random Access Memories』である。先月号のVIR のページでも語り尽くしたが、実際に発売されてこのアルバムがいろんな人に「聴かれる」ことになった今、さらに語るべきことがある。このアルバム、実際に聴くと改めてとんでもないアルバムである。今の時代には70年代・80年代のサウンド・スタイルのリサイクル、オマージュ、コピーの類はいくらでもあるが、これは本物である。オマー・ハキムがドラムを叩き、ナイル・ロジャースがギターを弾いている「本物の」「あの音楽」である。それがダフト・パンク名義で2013年の新作として、しかも最も注目を集める「今」の一枚として鳴っているという事態は異常である。愛着でも批評でも再現でもなく、それそのものをダフト・パンクの新作として出すという意味、そしてそれが受け入れられてみんなが当たり前のように聴くという意味、これは深いと思う。  
例えば、今あえてアナログ・レコードを聴くというのがマニアの間でブームだが、それは「いろいろ選択肢がある中であえてアナログ・レコードを聴く」という快楽であり、音楽を聴くためにはそれが当たり前だった時の快楽とは決定的に違う。快楽の質が変質している。過去の音楽スタイルを再現することにも同じ事が言える。70年代、80年代の音楽に対する憧れや批評眼によってそのスタイルに接近した音楽はその時点で決定的に本質を失っている。だが、このアルバムには、絶対に失われていなければいけないものが失われずにあるのだ。このタブーはダフト・パンクだからこそ犯せた。今世紀最大の確信犯的アルバムである。(山崎洋一郎)

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