日経ライブレポート「エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド」

エリック・クラプトンとスティーヴ・ウィンウッド、言うまでもなくこの2人が在籍したバンドは伝説のスーパーグループ、ブラインド・フェイスである。アルバム一枚しか残さなかったこのバンドが1969年に結成された時、高校生の僕はとても興奮したことを覚えている。しかしその興奮に水を差したのは、クラプトンの「このバンドはスティーヴ・ウィンウッドのものだから、僕はギターを弾くだけだ」というクールな発言だった。今回の来日でのスティーヴ・ウィンウッドのインタヴューによると、確かに当時のクラプトンの立ち位置はそうしたものだったようだ。

ただ、そうしたクラプトンの姿勢の基本には、スティーヴ・ウィンウッドの才能に対する大きなリスペクトがある。42年ぶりのブラインド・フェイス再結成と言ってもいいこのツアーにおけるクラプトンのスタンスも、その時に近いものだ。あくまでもステージのおいしいところはスティーヴ・ウィンウッドに、自分は歌にしろギターにしろナンバー・ツーの立ち位置で演奏するという姿勢であった。

クラプトンファンにとってはどこか物足りないところがあったかもしれないが、僕はそのことによってよりクラプトンの魅力も鮮やかに浮かび上がったと思う。実はクラプトン自身もそれを知っているのではないだろうか。彼のライヴを何度も観ている人の多くは感じたと思うが、今回彼は上機嫌で、演奏することをとても楽しんでいた。ソロ・ライヴの時に見せる、ステージ上の責任を全て自分が担わなければならないどこか居心地の悪そうな佇まい、それがなかったのだ。2人のロック・レジェンド、その最も核の部分が楽しめる夢の2時間だった。

12月2日 日本武道館
(2011年12月8日 日本経済新聞夕刊掲載)
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