日経ライブレポート「AC/DC」

ロックにとっての正義、それはAC/DCなのでは、大げさに言うとそんな事まで考えてしまう素晴らしいライヴだった。

9年ぶりの来日である。さいたまスーパーアリーナは2万人の聴衆で埋まった。オープニングの映像が終るとステージには巨大な列車が登場、それが煙を吹き、火花を飛ばす中にメンバーが登場。実にこのバンドらしい演出で盛りあがる。ギターのアンガス・ヤングはいつものように半ズボン・スタイルでいつものようにチャック・ベリー・スタイルでステージを動き回り、いつものように半身裸になってギターを弾きまくった。そしていつものようにアンコールでは大砲が登場して、いつもの演出でいつもの曲が演奏されコンサートは終った。まさに何も変わらないAC/DCがそこにあった。

普通ならばそうしたバンドの在り方はマンネリであったり停滞であったりするのだがAC/DCは全くそれがない。むしろ2010年のバンドのリアルがしっかりと感じとれるライヴになっている。それがこのバンドの凄いところである。一体、何によってそのリアルを実現しているのか、その事ばかりを考えてライヴを観ていた。僕なりの結論は、まず当たり前だが音楽そのものの時代を超えた普遍性、そしてそれを再現する肉体性、その両立という事だ。

とにかくアンガス・ヤングは良く動く。年齢を考えると倒れても不思議はない位動く。ある意味、音楽的には必然性がないにもかかわらず動く。きっとそれが彼にとってのロックなのだと思う。そこに正義を見ているのだと思う。きっと動けなくなったら止めるのだろうな、と考えながら見ていると、まさにAC/DCこそがロックの正義なのではと思えて来た。

3月12日 さいたまスーパーアリーナ

(2010年3月23日 日本経済新聞夕刊掲載)
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