日経ライブレポート「PJハーヴェイ」

大太鼓と小太鼓を首から下げ、それを叩きながら歩くパーカッショニストとドラマーを先頭にメンバー全員が登場する、とても演劇的なオープニングが印象的だった。今日のステージは凄いものになりそうだ、そんな期待感が会場に広がった。今回のライヴは最新アルバム「ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト」のほぼ全曲を演奏するものとなった。このアルバムを演奏することが自分にとって今の全てなのだ、という彼女のメッセージが強く伝わって来るステージだった。

このアルバムは彼女の4年に及ぶコソボ、アフガニスタン、ワシントンDCへの旅のドキュメントという内容になっている。しかもそのレコーディングの様子を一般公開した実験的な作品でもある。それぞれの場所で感じた世界の現状、それをギリギリの言葉と音で表現した素晴らしいアルバムだった。とても重い内容ではあったが、見事本国イギリスではチャートの1位に輝いた。ただ、メッセージや歌詞の内容は重いが、歌われるメロディーはポップで開かれたものだ。あくまでもエンターテイメントとしても質の高いものでありたいという彼女の姿勢がはっきり出ている。

世界のリアルを歌う生々しさと、音楽的な実験性や前衛性を持つ表現が、多くの聴衆に支持されるというロックの理想型がそこにはある。ロックがポップ・ミュージックの主流になってから長い時間がたつが、こうした理想型を作るのはどんどん困難になってきている。そうした意味でもPJハーヴェイの最新作は重要な作品といえる。過去の有名曲はほとんど歌われなかったが、それを不満に思う人は居なかったと思う。
1月31日、オーチャードホール。

(2017年2月8日 日本経済新聞夕刊掲載)
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