今週の一枚 ドレイク『More Life』

今週の一枚 ドレイク『More Life』

ドレイク
『More Life』
3月31日(金)発売

昨年アメリカでアルバム・セールス通年2位を記録した『ヴューズ』に続くドレイクの新作。収録曲22曲とこれだけの作品を1年で早くもリリースしてくるこの制作ペースにも驚くが、なんといっても、この内容の充実ぶりがまたすごい。

『ヴューズ』ではこの作品のメインテーマとなった人間関係の移ろいを叙述していくというアプローチを取ったため、かなり中道寄りな作りになったし、内容的にもメロドラマ的なモチーフが多く、戸惑ったファンも多かったかもしれない。しかし、このドラマがこの作品のリアリティだったのでそこに全神経を集中させたところがいかにもドレイクらしい潔さだったし、自分が抱える関係の変化を次々にクロニクルしていく歌とMCの在り方そのものがヒップホップ・アーティストとしての試みだったといえるのだ。ただ、一般的には内容がやわになったという声も多かったので、それに対応するものとして早くもリリースしてきたのが今回の『モア・ライフ』なのだ。

といっても、前作を打ち消すような作りではなく、ある意味でドラマを綴っていく重要性は前作で徹底的に貫いたので、今回はヒップホップ・アーティストとしてのエッジもそうした楽曲とともに併存させるという作りになっていて、現時点でのドレイクのすべてが詰まった作品になっている。そのエッジからポップなソングライティングまですべて堪能できるという意味で、今現在最高のドレイクという内容に仕上がっているのだ。

冒頭はきちんと俺様節となる“Free Smoke”、“No Long Talk”をぶちかましていくが、“No Long Talk”ではイギリス出身のギグスを客演させているのがひとつのポイントで、このアルバムでドレイクはジョージャ・スミス、サンファなどかなり積極的にイギリスのアーティストをフィーチャーしていて、それがこの作品のサウンドのひとつの新機軸ともなっている。

それに続くのが今回のアルバムのもうひとつの特色ともなっているもので、ここ数年ドレイクへの影響が濃厚になってきているカリビアン・サウンドが一気に続く展開となっている。このサウンドに乗せてドレイクは『ヴューズ』でも披露した、自身の人間関係のさまざまな局面を綴っていくことになり、こうした楽曲群は前作同様、かなりしっとりとした出来になっている上にドレイクの節回しにかかるとどこまでもまとわりついてくるような語りとなって、これはやっぱり気持ちいいのだ。特にポップ・ソングとしての完成度が高すぎる“Passionfruit”などは、おそらくこの先のドレイクの代表曲のひとつとなっていくのでは?と思えるほどの出来になっている。

その後、中盤ではエッジーでモダンなヒップホップ・トラックが並ぶことになり、人間関係のほか、ドレイクが自分だけの路線を貫いてきたことに伴うさまざまな困難を振り返りつつアーティストとしての自負を叩きつけていく楽曲が展開することになる。

その後、いったんまた恋愛をめぐる楽曲が続いた後で、このアルバムのハイライトとなってくるのが“Lose You”からの流れだ。この曲は長年のコラボレーター、40がプロデュースしたドレイク特有のモダンさとエレクトロニックなエッジを持ったトラックで、自身が自分の表現に打ち込めば打ち込むほど人間関係がおろそかになっていく心境が綴られたものになっていて、素晴らしいサウンドとMCパフォーマンスが同時に繰り広げられ、それに続く“Can't Have Everything”も同様な内容と仕上がりとなっている。

そしてとどめとなるのがカニエ・ウェストとのコラボレーションとなる“Glow”で、カニエの音とカニエ節とともに、今輝いている自分たちの表現についての自負と、まだ理解される以前の他人の目について振り返る、積年の思いのたけをぶちまけるものになっていてものすごい迫力に満ちた展開となっているのだ。

終盤は現在の自分の状況への違和感を綴ったものになりつつ、最終曲“Do Not Disturb”ではこの1年の自分の周辺のまとめを一気にフロウとして綴っていく。その最後の文句がタイトルとなる「More Life」なのだが、これは最近のドレイクがとみに影響を受けているカリブやジャマイカのスラングで「よりよい生活」を意味していて、来年になったらもっとまともになった生活について報告できるだろうという締め方になっているのだ。しかし、もちろん、通常の意味の「More Life」でもあって、このアルバムで綴った悩ましい生活がどうせまだまだ続くんだろうという皮肉にもなっているのだ。どこかドクター・ドレーの“Nuthin'But a G Thang”を締め括る「Chill Out 'till the Next Episode」という文句を思い出してとても印章的だった。(高見展)
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