今週の一枚 ジャミロクワイ『オートマトン』

今週の一枚 ジャミロクワイ『オートマトン』

ジャミロクワイ
『オートマトン』
3月31日(金)発売

新作『オートマトン』を携えたワールド・ツアーは日本から始まる。5月25日に決定していた東京国際フォーラムに続き、前日24日の追加公演(Zepp DiverCity)もチケットは即完した。2012年の来日時は、ジェイ・ケイの体調不良によるサマソニ大阪キャンセルが残念だったが、あらためてジャミロクワイの根強い人気を伺わせる。

“Automaton”のミュージック・ビデオ

ミニマルなシンセ・リフとオートチューンの声が配された“Automaton”のビデオの中で、ジェイ・ケイ型のロボット(?)は羽飾りのようなデザインの金属製の冠を拾い上げる。これは、2006年のベスト盤『ハイ・タイムス:シングルズ 1992-2006』のジャケット・アートワークで浜辺に置かれた冠を思い出させるものだ。つまりここでは、「ジャミロクワイの歴史を拾い上げる」意図が込められているわけだ。

“Cloud 9”の ミュージック・ビデオ


続いて公開されたシングル“Cloud 9”のビデオは、ヴィンテージ・カーによるチェイスや趣のあるバーでのダンスが、真新しくはないもののロマンチックでアダルトな恋の駆け引きをイメージさせる。ベテラン・グループとなったジャミロクワイが、ベテランであることを正直に引き受けた上で、それでも粋なダンス・ミュージックを鳴らしてやろうとする意気込みが窺える。

一時代を築いてしまったグループほど、時を経れば時代遅れのレッテルに最も近いところに立たされてしまう。00年代以降のジャミロクワイは、どうにか新しいスタイルを提示しようと苦心していた。しかしそれは、元々自分たちが持っていたスタイルを否定してしまう危険性とも紙一重である。だから彼らは新作で、ジャミロクワイをジャミロクワイ足らしめる本質は何か、という課題と向き合っていたはずだ。それはざっくり言えば、誰よりも粋でスマートなポップ・ミュージックを鳴らすことである。

“Superfresh”や“We Can Do It”の野心的に練り上げられたソングライティング。そして、“Summer Girl”や“Dr Buzz”のきっちりとムードを牽引するサウンド。そして新作『オートマトン』で最も驚くべきなのは「粋であること」「スマートであること」における徹底的なクオリティ・コントロールである。そんな、ジャミロクワイに期待される本質的な価値の大きさに比べれば、上っ面だけの真新しさなど二の次の話だ。

僕は2005年作の『ダイナマイト』がとても好きで、世間の評価があまり芳しくないことに歯痒い思いをしてきたが、考えてみればあの泥臭いヘヴィ・ソウル / ファンク路線は「粋であること」「スマートであること」から最も懸け離れた作風だったかもしれない。自分たちに寄せられる大きな期待の本質を解析し、それを体現してみせた『オートマトン』は、その点で完璧なのだ。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする