今週の一枚 水曜日のカンパネラ 『SUPERMAN』

今週の一枚 水曜日のカンパネラ 『SUPERMAN』

2017年3月8日(水)の初日本武道館ワンマンを目前に控え、文字通り「満を持して」というタイミングでリリースされる、水曜日のカンパネラのメジャー1stアルバム。

ダンスフロア映えするクールなハウスナンバー“アラジン”がホームセンターの話だったり、時代の変革期のカオスを《幕末の世は END OF 候》《薩長プッチョヘンザ》(“坂本龍馬”)と独特のユーモアで綴ってみせたり、《マトンが1枚、マトンが2枚》とジンギスカンの肉を数える曲が“チンギス・ハン”だったり、アフロハウスの小気味良いビートに乗せて喜劇王が凸凹クッキングを繰り広げたり(“チャップリン”)……といった具合に、各時代・各分野の「スーパーマン」像を水カン独自のセンスと視点で切り取り最新型のサウンドとマッシュアップした、どこまでも痛快な1枚だ。

そして――海外の名だたるトラックメイカーとタッグを組んで制作された昨年6月のミニアルバム『UMA』から一転、全作詞とトラックをケンモチヒデフミが手掛けた今作でよりいっそう際立っているのは、水曜日のカンパネラの、というかコムアイの「軽さ」である。「軽薄さ」ではない。聴き手をあらゆる重圧やしがらみや文脈から解き放つ、どこか魔法にも似た「浮力」だ。

心の琴線をやわらかく撫で回すようなファルセットはもちろん、言葉の速射砲のように地声で繰り出されるフロウの部分でも、コムアイのボーカルには聴き手に挑み衝撃を与える「パンチ感」とは対照的な、むしろ聴く者を歌の奥底に導くような誘引力が備わっていることを、おそらく誰もが感じているはずだ。
メロディの束縛に囚われず、あらゆる意味性の重力に鮮やかに抗いながら、触れる者すべての感覚をふわっと空中に解き放つ――そんなマジカルな妖力に満ちたコムアイの歌声と佇まいは、それ自体が今この時代の至上のポップアートである、ということだ。

おそらくコムアイが歌えば、たとえ「寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ〜」であっても「3.1415926535〜」であっても、最高の「軽さ」を備えたアート作品になることだろう。
そこに絶妙のウィットとユーモアをあふれんばかりの勢いでトッピングし、ベースミュージックの粋を集めたサウンドとともに響かせることによって、その歌はよりいっそう爽快な浮力を獲得することができるのである。

海外アーティストとともに作品を研ぎ澄ませ「SXSW 2016」に出演し、広く世界に視線を向けた季節を経て、改めて水曜日のカンパネラというポップマジックの根源にある「軽さ」が浮き彫りになったような、聴く側にとっても確かな手応えを感じる作品であることは間違いない。(高橋智樹)
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