今週の一枚 back number 『ハッピーエンド』

今週の一枚 back number 『ハッピーエンド』

快楽、怒り、多幸感、抵抗、苛立ちなどポップミュージックが生まれる動機は数多あるが、back numberが――というか清水依与吏がラブソングを生み出す主要な原動力が「懺悔」「後悔」であることには、初期からのファンならずともそろそろ日本中の人が気づいているはずだ。

ファンファーレの如く晴れやかなメロディと弾むようなリズムとともに《繋いだ手からこぼれ落ちてゆく/出会った頃の気持ちも 君がいてくれる喜びも》と突き上げる“繋いだ手から”。
《君に嫌われる理由など/山ほど思いついてしまうけど/優柔不断と口だけの/二重苦がきっと決め手だった》という煩悶を逆噴射させて「男らしくなった新しい僕」へのアッパーな変身願望へとネガポジ転換させる“スーパースターになったら”。
目の前の「君」へ向けてオーバーヒートしたエモーションが《偶然と夏の魔法とやらの力で/僕のものに なるわけないか》と虚空でむせび泣く“高嶺の花子さん”――。

自分自身の不甲斐なさや弱さも全部認めた上で、大切な「失われゆくもの」「消えゆくもの」を全身全霊傾けて活写しようとする情熱が、美しく麗しいメロディとともに心のど真ん中に滑り込んでくるポップマジックがそこにはある。
逆に言えば、清水自身のいびつな想いとバランスを取るためには、それだけの輝度と訴求力に満ちたメロディを必要とした、ということでもあるのだろう。

そして――それこそバラード千本ノック街道真っ只中のback numberが繰り出した新たな名曲“ハッピーエンド”。
“助演女優症”“幸せ”“fish”といった楽曲と同じく、清水が女性の「私」を一人称として「あなた=僕(自分)」を描いているこの曲。その筆致があまりにも鮮明で緻密なために、「私」の喜怒哀楽の動きだけでなく、「私」が向き合っている「あなた」の行動と表情、その裏側にある感情までもがくっきりと浮かび上がってくる。

《こんな時思い出す事じゃ ないとは思うんだけど/一人にしないよって あれ実は嬉しかったよ》

《泣かない私に少しほっとした顔のあなた/相変わらず暢気ね そこも大好きよ》

《気が付けば横にいて/別に君のままでいいのになんて/勝手に涙拭いたくせに/見える全部聴こえる全て/色付けたくせに》

「あなた=僕」の意志ではどうにもならないひとつの物語の終幕を、「私」側から残酷なまでに正確に美しく描写しきったこの“ハッピーエンド”には、誰もが幸せになるステレオタイプなハッピーエンドは存在しない。ここにあるのは、「自分自身のハッピーエンドを描くことができなかった男」の憂いと苦悩そのものだ。
ストリングス&ピアノとともに壮麗に響くこの楽曲のメロディの濃密なセンチメントは他でもない、清水の詞世界にこめられた想いの切実さそのものを証明するものだ。(高橋智樹)
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