映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』公開。今再び注目されるN.W.A.のリアルとは

映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』公開。今再び注目されるN.W.A.のリアルとは

80年代末にいわゆるギャングスタ・ラップを生み出し、ヒップホップに一大革命をもたらしたN.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』が日本でも公開になった。アメリカでも夏に公開され、大ヒットとなったこの映画だが、それにしても今なぜN.W.A.なのか。それはN.W.A.といえば1988年の最大のヒット曲"ファック・ザ・ポリス"であり、警察がN.W.A.の地元コンプトンのような犯罪多発地帯で公然と行っていた黒人青年への差別的な対応と暴力を糾弾した問題作だったからだ。そして、警察権力による暴力事件は、2012年にマイアミでコンビニにジュースを買いに行った帰りに黒人少年トレイヴォン・マーティンが不審者として自警団員に射殺された事件をきっかけに今でも同様のさまざまな事件報道が常態化している現実となっているのだ。

もともと2009年頃から映画としての企画が進行していたというが、結局、15年の夏に公開になったというのはある意味で非常にタイムリーな展開であったのは事実だ。しかし、この作品が大きなヒットになった要因としてはさらに、この映画がヒップホップの原点をよくつまびらかにしていることが挙げられるのだ。たとえば、ヒップホップがもともと70年代後半のニューヨークでひとつのカルチャーとして生まれてきたことはこれまでさまざまな形で映像でも紹介されているし、そうした名作ドキュメンタリーなども存在する。けれども、そんなローカル・カルチャーだったヒップホップが、現在のようにアメリカのエンタテイメントのメインストリームの一部とさえなったのはどうしてなのかということもこの映画はほのめかしてくれるのだ。

ここではロサンゼルス南部のコンプトンという80年代最恐の犯罪都市におけるローカル・カルチャーをどう伝えようかというテーマと取り組んで奮闘するN.W.A.の面々の姿が描かれている。最終的にN.W.A.は自分たちの生活を取り囲んでいる暴力をあらゆる形で描出していくことでギャングスタ・ラップを発明していくことになるのだが、ここでN.W.A.が成し遂げたことはヒップホップを明確な目的を持ったメディアへと作り上げたということなのだ。たとえば、同時期にはニューヨークでも過激なメッセージ性を打ち出すパブリック・エナミーが登場し、たちまちにして大きな人気と注目を誇ることになり、パブリック・エナミーもまたヒップホップをメディアとして捉えていたことが画期的だった。しかし、パブリック・エナミーのメッセージがどこまでも思想的なものだったのに対して、N.W.A.の強烈なラップの数々が徹頭徹尾ニュース速報的な即効性を備えていたことがN.W.A.とギャングスタ・ラップと、ひいてはその後のヒップホップの爆発的な普及をもたらしたのだ。

当時はなにかと問題の多いグループだったし、この作品で蓋をされていることもいろいろあるだろうが、ヒップホップをメディアへと作り上げていくそのプロセスを皮膚感覚的に描出しているところがこの映画の最大の魅力だし、エミネムの『8マイル』と並んでヒップホップの現場をよく伝える作品に仕上がっているといえるのだ。作品中、ドクター・ドレーがイージー・Eの初シングルとして作り上げる"ボーイズ・イン・ザ・フッド"はその後、ロサンゼルスのギャングの生態を描いた名作映画『ボーイズ・イン・ザ・フッド』を生み出すことになるが、そうした背景も踏まえながらギャングスタ・ラップの誕生の真相をこうやって描く作品が生まれたこと自体が観ていてとても感慨深い。また、字幕の皮膚感覚も登場人物たちの生活感にとても近くてリアルだったのもとても楽しかった。(高見展)
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