これは、2900万ドルと言われている制作費のすでに2倍以上ということのみならず、トム・クルーズ主演の『ミッション：インポッシブル／ローグ・ネイション』の初週記録5550万ドル(制作費は1.5億ドル）も、マーベルのスーパーヒーロー映画『アントマン』の5722万ドル（制作費は1.3億ドル）も抜く記録。大スターが出た人気アクション映画と、アメコミスーパーヒーローを抜く結果に大騒ぎとなっている。
物語は、タイトルの通りN.W.A.のアルバム『Straight Outta Compton』がどのような背景で生まれたのか、について。それ以前に彼らの生い立ちや生活環境、そこから何が起きて解散し、それぞれどのような道を歩んだのか、ということも描かれている。ドクター・ドレーやアイス・キューブが映画のプロデューサーでもあるため、本人達から実際何が起きたのかを聞いて生まれた作品というのが売りでもある。
アイス・キューブの実の息子がアイス・キューブ役を演じていて、ものすごく似ているということのみならず、演技が光っているのも見どころのひとつ。
また、警察に不当な扱いをされ、アイス・キューブが”Fuck The Police”を作るシーンや、それがどのようなセンサーシップを受けることになるのか、という場面は、現在アメリカで起きている事件ともそのまま重なり、20年以上経っているのに、不幸にも今の時代にリンクしてしまうことが映画の大きなメッセージともなっている。
さらに、彼らがデビューしてからビジネスについて知らなかったため、いかに搾取されたのか。しかし、アイス・キューブは直感的に何かおかしいと気付き、いかにそれに逆らっていたのか、というシーンも興味深い。
最終的には、そういう酷い環境の中から、暴力ではなくてアートで自らを表現しようとした、というところがポジティブなメッセージである。また、個人的には、同じコンプトンからケンドリック・ラマーという素晴らしいラッパーが誕生した時代に、この作品が発表されたことにも大きな意味を感じた。
ケンドリックが、憧れのN.W.A.に質問するという企画がビルボード誌で行われていて、彼も今や大スターなのに、子供に戻ったようにドキドキしながら、「これだけ長い間どうやったら正気でいられるのですか？」など質問している。
こちら映像。
またドレーは、結局出なかった『デトックス』の代わりに、この作品のサントラ『コンプトン』を発表。批評家の評価もすこぶる高い。これが最後の作品になるそうだ。売り上げはすべて、コンプトンのアートセンターに寄付するそう。
映画は、2週目でさらに拡大公開される予定で、記録をさらに塗り替えると言われている。
そう言えば、アメリカでは映画の公開初日に、発砲事件が起きているため、今回も配給会社が各地でセキュリティに力を入れた。実は私は一刻も早く観たくて、初回に観に行ったのだが、警察が劇場の入り口にいたりして、内心万が一発砲があったらどうしようとドキドキしながら観ていた。実際は何もなかったのだけど。むしろ、スクリーンに向かって話している観客がたくさんいて、さすがニューヨークという感じだった。
かのネルソン・ジョージがツイートで、今アメリカで1位の「映画、TV、ブロードウェイ・ショーは、すべてヒップホップが共通」とつぶやいていた。
確かに。映画は『コンプトン』で、TVは『Empire 成功の代償』。ブロードウェイ・ショーは、現在超超超大ヒットでぜんぜんチケットが買えない『ハミルトン』。これは、合衆国建国の父のひとり、アレキサンダー・ハミルトンの人生を描いたブロードウェイ・ミュージカルなのだが、なんと音楽が全部ヒップホップなのだ。すでに『ライオン・キング』並みにヒットすると言われていて、観たいけれどまだ観れていない。
