ザ・ストーン・ローゼズの革命とは何だったのか

ザ・ストーン・ローゼズの革命とは何だったのか

ザ・ストーン・ローゼズとは何なのか。苗場には朝はやくから彼らのTシャツを着込んだオーディエンスがそこら中にいた。今日の苗場は珍しく晴れて、いつにも増してピースフルな空気が充満していたのだけど、それは天気のおかげだけではなかったはずだ。ザ・ストーン・ローゼズがふたたびこの世に現れて、この目の前でライヴを行う、そのとてつもない高揚感が、この日のこの場所をこんなにも幸福なものにしていたのだと、そう思う。

21時30分、Green Stageに4人が登場した。イアン、ジョン、マニ、そしてレニ。フィールドを埋めた数万の観衆から湧き上がったどよめきとも悲鳴ともつかない歓声は、きっとこれから忘れることはないだろう。それは、当たり前なのだろうけど、イアンのソロのときに起きるものとは違っていた。マニがボビー・ギレスピーの隣でプレイするときとも違っていた。この4人が4人として、ひとつのステージをともにしたことがもたらしたものだ。

ザ・ストーン・ローゼズとは、だからいったい何なのだろう。それは、阿呆なことを口走ってしまうようだけど、「仲間」ということである。この4人であれば、最強であって、奇跡を起こせて、革命だって起こせる。そんな空気を呼び起こす、とても不思議なマジックとしての「仲間」。それがローゼズなのである。

ローゼズには、いわゆるフロントマンはいない。かといってサイドマンもいない。マニは始終他の3人をみつめながらプレイしていた。レニは振り返るメンバーたちにいちいち最大限のリアクションをしていた。ジョンはやはり孤高の人だったけれど、一音一音がバンドに捧げられていた。そしてイアンはもうひっきりなしに、マニをさわり、レニにちょっかいをだし、ジョンの肩を抱いては何やら話しかけていた。そして、バンドは誰が中心ということもなく、というか、全員が中心として、それぞれの役割を心から全うしていた。

そんな幸福な共同体は、現実にはそうそうありえないことを僕達は嫌というほど知っている。しかし、目の前のローゼズとは、そういうバンドなのである。そして、そんな4人がやってきたことは、単なるバンドの民主化ということにとどまらなかった。それは、80年代末の昔から、オーディエンスとステージとの垣根を取っ払うことでもあったし、オーディエンスのいるフィールドそのものも平和化するものだった(マッドチェスター・ムーヴメントを牽引したといわれるエクスタシーの効能も、それだったと言われている)。もちろん、それは今夜も当然のように実現していたのである。だから、そこには誰もが曖昧な俗世から飛翔させてくれるツェッペリン級の高純度なハード・ロックと、みんなが容易に口ずさめるビートルズのメロディと、すべてを揺らし溶かしてしまうファンクが混ざり合う、そんな音が必要だったのだ。ここでは、現実にある、未来を塞いでしまう何かを除去し、背中を押して、融和させてしまうものがあるのだ。つまり、ザ・ストーン・ローゼズとは、それがそこにあるとき、その「場所」、そこにいるすべての「われわれ」を解放してしまうのである。上下をなくし、出自をなくし、つまりは過去を消し、勝ち取るべき未来に向けて解放された大勢の群衆をその場所に現出させてしまう、そんなバンドなのである。そんな大勢の群衆、それがほかならぬ「仲間」と同義語であることは、言うまでもないだろう。そして、すべての「われわれ」が「仲間」と化した明日が、それだけで革命であることも、言うまでもないだろう。だからこそ、ザ・ストーン・ローゼズは、この4人が揃って目の前に立つということは、いつだって奇跡と、それが導き出すであろう革命を強烈に予感させるのだ。

重要なのは、そんな現実から未来に向けて「憧れられる」のも、あるいは「復活」するのも、特別な誰かではないということだ。ごく普通の4人(ローゼズの4人ほど、押し付けがましくない、つまりはスター・エゴの感じられないスターもいない)が、「仲間」である、その1点において、そしてそれを何よりも実体化させる(「仲間」にしてしまう)そのマジカルな音において、受け手であるわれわれの普通さを肯定してしまうことにある。そんな、途方も無くて、だからこそ儚くもある奇跡に、われわれは歓喜し、泣くのだと思うのである。だって、やはりそんなことは、そうそうこの世の中ではありえないことなのだから。

ローゼズは、今日もびっくりするほど初々しい音を鳴らしていた。ツェッペリンとビートルズとスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンが仲良く同居する不思議な音を、嬉々として鳴らしていた。ローゼズは、結果として、フォロワーと呼べるバンドを産まなかった。ローゼズはローゼズとして、今もなお不思議な奇跡として目の前にあった。それは素晴らしくも、やはりどこかせつないことなんだと思った。
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