2010年上半期私的ベスト・アルバム 第4位 2010.07.29 19:30 Erykah Baduの『New Amerykah Part Two』を選出。

レイ・チャールズの「What’d I Say」は、いちばん最初のソウル・ミュージックと呼ばれている。軽快なビートと、セクシャルなフォーカスをもったこの曲は、一聴、ブラック・ミュージックの恍惚をあますことなく放出するものだ。しかし、この曲は、当時、非常にコントラバーシャルな奇歌として登場した。なぜなら、この曲は、ゴスペルのかたちをとりながら、ゴスペルのタブーをいっきに飛び越えてしまう内容を持った作品だったからだ。そんなことは当時あってはならないことだったし、しかしながら、この目の前のあってはならない曲に、ひとびとは瞬時に圧倒されたのだ。

Erykah Baduの今作は、例の「Window Seat」のミュージック・クリップから始まった。ケネディが狙撃された場所で、Erykahが一枚一枚衣服を脱ぎ去り、最後には全裸になって路上に倒れるまでを1台のカメラの長回しでとらえたこの映像は、いま観ても衝撃度にいささかの陰りもない。それでも、最初に観たときのインパクトは壮絶だった。最初は何気ない通りの風景と、軽くジョギングでもしているかのようなErykahの姿。しかし、そんな受け手の平熱は、最後には思いもよらない場所にまで連れ去られてしまった。

「Window Seat」が象徴するErykah Baduの作品と、レイ・チャールズの「What’d I Say」は、とても同じ匂いがする。受け手は、気がついたら取り返しのつかない場所にまで強制的に連行されている。もちろん、導入はひどく心地よく。しかし、曲が終わったとき、わたしたちは、これまでの自分でいることをやめさせられ、抜き差しならない淵に立たされる。

優れたブラック・ミュージックに冠される「洗練」とは、つまりそういうことだと思う。人を蕩けさせてしまうような音の波と、それが連れて行こうとする彼方の壮絶。来日ライブで体験したものも、まさにそういうものだった。それは怖ろしいものだった。そういう意味では、アタマからとにかくやたらに銃弾を乱射するM.I.A.とは、その怒りや背景の重さは別にして、方法論を異にするものである。



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