吉川晃司はなぜ、新曲”Dream On”を書くのに苦労したのか――というコラム的な文 章

吉川晃司はなぜ、新曲”Dream On”を書くのに苦労したのか――というコラム的な文 章

”Dream On”である。
吉川晃司の楽曲タイトルは常に単刀直入、ずばっと言い切ったら「あとは知らん」と大の字に寝転んでしまうような何より吉川晃司的な要素になっているのだが、今回もその「節」(ぶし)がガンガン効きまくっている。
”せつなさを殺せない”も”KISSに撃たれて眠りたい”も、最近だと”SAMURAI
ROCK”なんかも吉川以外言えないが、今日日、ドリームオンと言い切れる大人もやはりあんまりいない。
吉川晃司は今日も最高である。

というわけで、この楽曲について、ちょっと書いてみようと思う。

『SINGLES+』のリリースタイミングでインタヴューをさせてもらったとき、吉川は「曲が書けない」と言っていた。
その鬼門となった曲がこの”Dream On”である。
いわく、ある映画の主題歌の話を頂いて、その主人公に感情移入しながら書こうとするものの、「彼」の機微を掬い取り違っている、と。
なるほど。
「この雑誌が出る頃には曲ができてるだろうから、そしたら『頑張ったんだな』と思ってくれよ」と笑っていた吉川だが、うーむ、確かにこれは力作である。
というか、力作も力作、もはや吉川晃司そのもの、といったほうがいい楽曲だ。

これは映画『イン・ザ・ヒーロー』の予告編。
後半、”Dream On”が流れます。

歌詞はこうだ。
《人は 見果てない夢に賭け続け 倒れ続け 消えて逝く》
《信じろ 瞳に宿る光 その流行らない愚直さが美しい》

ヒーローを描いた映画の主題歌であることを差っ引いて考えても、見事なまでに吉川晃司だ。
特に、「賭け続け 倒れ続け」、そして「消えて逝く」というところがいい。

賭けることとはつまり倒れることであり、負けることであり、消えていく覚悟のことなんだ、という崖っぷちの言葉。
破れかぶれの狂犬根性で生きてきた吉川だからこそ歌える言葉であり、そして、そのレックレスな生き様をびた一文まけることなく、大衆の欲求に応え続けてきた吉川だからこそ泣かせる言葉である。
「何かに賭け、やがて消えて逝く」ことはむちゃくちゃカッコいいことなんだと、30年前から誰よりもわかっていた男、吉川晃司。
そして、今、彼はデビューから30年もの時間を駆け抜けてきて、そんな生き様のことを「それが夢を見続けることなんだ」と歌っているのだ。

さらに、この楽曲は実はものすごく短い。
いや、曲の尺自体は4分くらいなのだが、吉川が歌い出してから歌い終わるまで、2分半くらいしかない。
サビのリフレインもない。
2度、サビを歌い、スパッと終わる。
潔いことこの上ない。
気持ちいいくらいにスパッと歌い終わってしまう。
その分、アウトロは1分ほどたっぷりと用意されているが、その間の余韻はハンパではない。
それはつまり、「もう言いたいことは言ったぜ?」と颯爽と去っていく吉川の背中が、「夢を見る」ことを饒舌に語りまくっているから、である。
1分のアウトロの中で、吉川晃司は無言で歌っている。

冒頭に戻るが、だから、僕はこの曲を聴いて思った。
吉川さんは「感情移入の仕方がわからなくて」曲が書けなかったんじゃないな、と。
吉川晃司は今、あらためて「自分を書こうとしたから」曲が書けなかったんだ、と。

そして、その苦闘の果てで、過去のどんな曲よりもシンプルな言葉と歌を歌ってみせた吉川晃司。
その愚直さと、言いたいことを言ったらごろんと寝転んでしまうような「大の字」精神こそ、吉川晃司。
その意味において、この曲は最高のロックンロールナンバーなのだと思う。バラードだけどね。

というようなことを考えながら何度も聴いていたら、ギターのフレーズがえらい吉川らしいなと気づいた。
確認したら、ギターアレンジはやはりご本人でした。

とにかく勇気の出る曲です。

今発売中のbridgeに超ロングインタヴューが載ってますので、読んでください。
異常に面白いテキストになってます。
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