今週の一枚 RADWIMPS『記号として / ‘I’ Novel』

今週の一枚 RADWIMPS『記号として / ‘I’ Novel』

RADWIMPS
『記号として / ‘I’ Novel』
2015年11月25日(水)発売



メジャーデビュー10周年という初のアニバーサリーを迎えたRADWIMPS。そのタイミングでリリースされるシングル『記号として / ‘I’ Novel』は、かつてないほどRADWIMPSがRADWIMPSというものに向き合い、この先も進んでいくための作品になっている。

“記号として”は、“おしゃかしゃま”や“DADA”を思わせる、バキバキにヘヴィーでファンキーな曲。前述の2曲に比べ、音数は少なく展開もシンプル。でも貫禄と余裕すら感じさせるソリッドさがたまらない。「針の穴に糸を通すような日々」を送る中で、大多数による「世界」に対して、野田洋次郎がずっと感じてきた違和感を強烈に叩きつけ、「最高到達点」を目指そうとする。

“‘I’ Novel”は、“いいんですか?”的なミドルテンポの抜けの良いギターサウンドに、野田のラップが乗る温かみのある曲。《ずいぶん長らく歩いてきたような そんな気がしていただけなんだ/小説にしたらせいぜい まだ三行目あたりのこの人生》と、野田洋次郎がこれまで歩んできた30年間と向き合うところから始まる。まだまだやることはあるんだと、それをやれるだけやって強い輝きを放ちたいんだという思いが歌われ、《ゼロで生まれた僕なのに 今名前を呼ぶ人がいて/当たり前などない脳に 産み落としてくれて ありがとう》と感謝が綴られる。
10年前、“25コ目の染色体”でたったひとりの「あなた」への愛を歌い、そのたったひとつの愛についてしか歌うことはないと言っていた野田洋次郎。この10年間で、RADWIMPSを聴く「みんな」が生まれ、たくさんの「あなた」が生まれた。歌う理由は変った。しかし、野田洋次郎が発する言葉からは、RADWIMPSが発する音からは、ずっと真実しか聴こえてこない。聴き手に対し、一切の嘘のない、誠実で純度120%の音楽をやり続けた10年間である。
このシングルがリリースされる頃、RADWIMPSは初の対バンツアー「胎盤」の終盤を迎えており、そのライヴでも“‘I’ Novel”は演奏されている。MCで野田は、「あなたたちの目を見て100%作りたい曲を作ってこれからの10年進んでいく。この先も嘘のない100%やりたい音楽を作っていく」と、力強く口にしている。“‘I’ Novel”は、RADWIMPSがこれからもRADWIMPSであり続けることがはっきりと歌われている、私小説のような曲だ。

3曲目の“お風呂あがりの”は、バンジョーとマンドリンが絡み合う、軽やかで優しい曲。非常に密やかで親密な空気の中、自分を一番理解している一番近い他人のようでもある「自分自身」との対話が行われる。日々のほっとした時間における、野田洋次郎の心の呟きそのものが歌になっているようで、RADWIMPSの源泉というか聖域が露になったような印象を受ける。

ドラム山口智史が神経性の持病の悪化により無期限の休養に入ってしまったことを受け、ツアー「胎盤」は、その山口が見つけてきたという24歳のドラマー森瑞希と、東京事変で知られる刄田綴色という驚異的なツインドラム編成で行われている。この編成によって、アンサンブルは桁違いにヘヴィーでソリッドになっていて、凄まじいことになっている。ずっと一緒に歩んできた山口の休養は、RADWIMPSにとって過去最大の危機であったが、大切なRADWIMPSの10周年をどう迎えるかということに対し、いっそのことふたりのドラマーに入ってもらおうという振り切った決断をバンドは下した。すべては、自分たちのために、そして「あなたたち」のために、前進しなければいけないからである。
RADWIMPSはRADWIMPSとして進み続ける、その強い決意が、ライヴからも、そしてこのシングルからも、どこを切っても溢れ出ている。(小松香里)
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