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    ロジャー・ウォーターズ、『ザ・ウォール』について語る

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    • ロジャー・ウォーターズ、『ザ・ウォール』について語る - ロジャー・ウォーターズ『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』発売中

    11月25日にザ・ウォール・ツアーのライヴ作品『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』をリリースしたロジャー・ウォーターズは、『ザ・ウォール』が作品として持つ時代的な使命やロジャー個人にとっての意味などについて語っている。

    ローリング・ストーン誌の取材に応えたロジャーは1979年にピンク・フロイドとして発表した『ザ・ウォール』が、今もこれほどオーディエンスの共感を呼んでいるのはどうしてだと思うかという問いに次のように答えている。

    「1960年代や70年代の若い人たちに強く支持されたデモや抗議のムーヴメントが死に絶えると、その時の発想などはなぜかシリコンヴァレー革命とともにすっかり霧散してしまったんだけど、今になってようやくみんなも哲学や政治の問題とかなり幅広い度合で向き合っていく準備がまたできてきているとぼくは思うし、『ザ・ウォール』っていうのはそういうテーマが詰まった作品なんだよ。それにここで扱われているモチーフの多くは人生のクォリティに関するものでもあるし、さらに生きることと死ぬことに関するものでもあるんだ。

    また、『ザ・ウォール』はあるすごく根本的な問いかけについて考えてみるきっかけになる作品だと思うんだよ。つまり、それはいってみれば、ペレストロイカ以前(冷戦時代)の東ドイツみたいな国にどこまでもそっくりな社会に本当に住みたいのか、住みたくないのかということなんだよ。まあ、1930年代について話し出すとまた面倒なことになるからそれはしないけど、人々はやっと気づき始めたと思うんだよ。ほとんど夢遊病状態で帝国主義資本にまみれた世界の中をふらふら歩きながら、現実に法が平気で捻じ曲げられていて、軍が産業や商業を支配し始めていて、企業が政府を支配し始めていて、もはや人々には自分たちの声を代弁させるものがなくなっているということをね。だから、『ザ・ウォール』というのは、こう問いかける作品でもあるんだよ、『きみは自分も声を上げたいとは思わないのか? でも、思うんだったら死ぬ気になって自分の声になるものを探さないと無理な話だよ、誰もそんなもの、きみのためにあつらえてはくれないんだから』ってね」

    なお、『ザ・ウォール』は、70年代にライヴで騒いでいる一部の観客への不快感に駆られたロジャーが、彼らにめがけて唾を吐いた経験がきっかけとなったことでも知られている。ロジャーはこの時ステージと観客との間に耐えがたい壁があると感じ、その疎外感をさらに自分の生い立ちにまで遡って検証してみたコンセプト・アルバムだったとこれまでに語ってきている。しかし、リリースから36年経ったあと、自分と観客との関係もずいぶん変化していると次のように語っている。

    「かつての『ザ・ウォール』は20代の青年の口から語られるとても個人的な物語だったし、この青年は自分の人生がどうなっているのかよく理解できてない状態にあったし、自分がどうしてほかの人間から疎外されていると感じるのかもよく理解できてなかったし、だから、人と触れ合おうとすることもできなかったんだよ。でも、どうしてそのことをわざわざ表現したのかというと、ものすごく成功した若いミュージシャンとしてステージに立って観客を目の前にしながらそれを経験して、自分が感じていることと観客が感じていることの間にとてつもない乖離があると痛感したからなんだ。『ザ・ウォール』のきっかけとなったのはその疎外感を感じたことで、ステージの前に壁を積み上げていくという演劇的な舞台装置を考えてみたのも、そういう疎外感を表現するためだったんだ」

    「でも、今はね、ぼくはもうそういう疎外感を観客に対して感じていないという物語になってるんだよ。この数年『ザ・ウォール』を引っ提げて世界ツアーに明け暮れてきて、ぼくと観客のみんなとの繋がりはとても心の通ったものになったし、すごく近くて、ぼくにとって嬉しいものになったんだ。だから、『ザ・ウォール』はぼくたちが今生きている社会についての共同実験みたいなものになってるんだよ」

    なお、ロジャーはこれまでも1992年の『死滅遊戯』以来となるロック・アルバムの制作に着手していると明らかにしているが、制作状況については次のように語っている。

    「全体のデモはもう作ったんだ。今は部屋でギターを抱えながら、このすべてのデモ音源と、ノートとペンでいろんなものを配置したり替えたりして、ごちゃごちゃいろいろ書きつけたりしてるところなんだ。ある形を作ろうとしているところで、この絵が完成したらどんなものになるかそのラフ・スケッチを描いてるようなものなんだ。特に今心がけてるアプローチはアリーナ・クラスでのライヴとして想定することで、少なくともあと1回はそういうツアーをやることになると思うんだ。今はこれだけの新しい楽曲群と古い曲の数々をどう混ぜ合わせれば、みんなが観に来たくなるような一体感のあるアリーナ・ライヴになるかなって思案してるところでね。アルバムで扱っている基本的な問いかけは『なんでぼくたちは子供たちを殺してるんだ?』っていうものなんだよ」

    なお、先頃ロジャーはアメリカの負傷兵支援のためのチャリティ・ライヴ、ミュージック・ヒールズにも出演を果たしたが、今後は時間があるので新作の制作に専念できそうだとも語っている。また、かつてのピンク・フロイドのメンバーと自分の関係については次のように語っている。

    「ニック・メイソンとぼくは本当に気が合うんだ。もう50年来の友達なんだよ。まあ、バンドをやめた後はちょっとぎくしゃくしたけど、それは無理ないし、でも、それもほんの短い間で、今じゃ本当に大親友だよ。だから、よく会うんだ。リック(・ライト)は残念ながら故人になってしまったしね。シド(・バレット)も亡くなってるし。デイヴィッド(・ギルモア)とはうちとけたことがまるでないから、そういう付き合いはないし、お互いの間でのそういうやりとりはしたことがないんだ。別にそういうことでいいんじゃないのかなと思うし」

    なお、2013年まで3年間行われた『ザ・ウォール』のツアーのドキュメンタリーとなった映像作品『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』も2月3日に国内版Blu-ray+DVDとしてのリリースが予定されている。
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